【赤岳東稜 2月】長い雪稜が美しい赤岳東稜に登る

目次

厳冬期の赤岳東稜

こんにちは、がくんちガクです。

赤岳の東稜といえば、八ヶ岳には珍しい長い雪稜があるバリエーションルートで、とても景色が美しい場所。アプローチもスキー場のリフトが使えるのでショートカットできる。久しぶりの冬山で、そんなに責めたいわけではない私にはちょうど良かったが、3人で登ったのは初めてだったため、想定外に時間がかかってしまった。極寒の八ヶ岳の洗礼を受けながらの岩の登攀や雪稜の登高を振り返りながら、記事にまとめてみた。

概要

【基本情報】

場所赤岳東稜
ルート:真教寺尾根 ~ 幕営地(2,500m) ~ 赤岳東陵 ~ 竜頭峰 ~ 真教寺尾根
日程: 2024年2月23~24日
メンバー: みやちん、あっちゃん、ガク
天候: 23日 雪のち晴れ / 24日 快晴
登攀/登高時の装備: 60メートルロープ 1本、ダブルアックス、アッセンダー 1ヶ、ビレイ器具各自、スノーバー 2本(使わず)、支点構築に適したスリングやカラビナ適量など(登攀用ではないが、昔使ったような気がして持ってきたワカンは、別の山と勘違いしていたようで使えなかった)
所感: 日が出ている間は温かかったが日影では極寒だった。残雪期にも登ったことがあるが、厳冬期だと難しくなるなと改めて思った。

【行動記録】

【1日目 アプローチ】
9:00 サンメドウズ清里スキー場に到着
10:30 1,900m地点(パノラマリフト利用)
15:30 2,500m地点 (幕営地)
22:00 就寝

【2日目 アタックと下山】
4:00 起床
5:45 2,500m地点出発
7:30 第一岩峰取り付き
15:30 竜頭峰脇の真教寺尾根分岐
22:00 サンメドウズ清里スキー場の駐車場

気まぐれに決めた山行と憂鬱なアプローチ

なんとなく冬の山に行きたくなって、家のホームパーティーに来ていた友人に声をかけたところ、行くことだけはその場で決定。ただ、どこへ行くかはなかなか決まらず、前日まで天気予報を見て悩んでいた。結局、私が10年近く前の残雪期に登ったことのある赤岳の東稜ということになり、これが私にとっては7年ぶりくらいの登攀を伴う雪山となった。初心者向けルートの一つではあるが、雪山なのでコンディション次第では厳しくもなる。

山行の前夜、赤岳の東面付近に前泊するために新宿駅に集合したのは夜の21時頃。そこから数時間かけて清里にやってはきたものの、雪が降り始めてしまった。前泊適地を探してさまよったが良い場所は見つからず、仕方がないのでとある駅の駐車場で車中泊。

翌朝も雪は降り続き、地面には15センチほどの雪が積もっていた。昨晩のように湿った雪ではなかったのはありがたい。湿雪だと衣服が濡れてしまうため、山中での生活が非常に不快なものになってしまう。それでも雪の中を行きたいほど気持ちが高ぶっていない我々は、緩慢な動きで出発の準備をした。

赤岳東稜へは真教寺尾根を経由してアプローチするのだが、標高1,900mまではスキー場のリフトで行くことができる。この年齢になると楽なものはすべて利用したい。9時前にサンメドウズ清里スキー場に着くと、すでに沢山のスキー客でにぎわっていた。

アプローチ開始

駐車場で準備をしてスキー場のリフト券売場へ向かう。途中で横切った広場で遊ぶ子供たちの姿が愛らしい。家族連れが多いスキー場なんだろうか。リフト券売場で話を聞くと、パノラマリフトに乗って最上部まで行くらしいのだが、長いリフトのため片道で回数券2枚が必要らしい。往復券も考えてみたが当日のみ有効のため、翌日に下山する我々は往復券が使えないとのこと。リフトの営業時間内には下山する気満々だった我々は、その分の回数券も購入しておいたのだが、それらは春になった今でも財布の片隅で眠ったままになっている。

リフト券購入後はスキー場の左手奥まで歩いてパノラマリフトに乗り、一気に1,900mまで標高を上げる。リフト下り場の左手奥に見える木の階段を上り始めるのだが、登山道へ入る場所を間違えて最上部のカフェまで行ってしまい、少し戻ってから登山道に合流した。相変わらず雪は降り続いていて、登山道には10cmほどの新雪が積もっている。この日のスキー場のコンディションは良さそうだと想像できるような綺麗なパウダースノーだった。

黙々と登山道(真教寺尾根)を登り続け、2つほどの緩いピークを越えてからしばらくすると、急に勾配が強くなってくる。全員がノーアイゼンで登っていくが、私だけダブルストック(他はピッケル)だったため、滑り止めが効かないイメージが増幅して高度感のある場所では怖くてしょうがない(しかも背中が重い)。2カ所ほど本気で怖い思いをしながら登った覚えがある。一旦は2,300mほどで幕営地を探そうとしたが、やはり2,500mまで行った方が良いと話し合って進んだ。

2,500mというと森林限界のやや手前だが、木々の中を歩く当人達にはその先の森林限界が近いかどうかは見えないため、高度計を頼りに幕営適地を探す。登山道から少し脇に入ったところでテントを張ることにした。肥満化が進んだ私は雪を踏み抜き続けながら倒れこむように幕営地に到着。ザックからテントを取り出しながら、いつの間にか雪が止んでいることに気が付いた。

幕営

今回はあまり酒を持ってこなかった(そしてあまり飲まなかった)のだが、最初の一杯目のビールは鮮烈だった。2,500mと言えば気圧が低いためビールの泡が本当にシュワシュワする。厳冬期の山の中とはいえ、乾いた空気の中をほとんど水も飲まずに歩いてきたため、枯渇した体に泡のはじける感覚が染み渡る

友人が具材を用意してきてくれた「きりたんぽ鍋」が出来上がるのを待ちながら、北海道土産のロッキーサーモン(佐藤水産)をほおばる。相変わらずの美味しさに気持ちが満たされる瞬間。出来上がったきりたんぽ鍋をつつきながらたわいもない話をし、熱湯で温めた熱燗をすする。テントに入ったのは4時頃だったのに、あれよあれよと時間が過ぎて、気が付くと21時を回っていた。急いでテント内を片付けて歯を磨き、皆が寝袋に入ったのは22時頃だったと思う。

初日のアプローチから幕営までを収めた動画はこちら👇

第一岩峰に向かってアプローチ開始

起床したのは朝4時頃だったが、朝食を食べてから登る準備をしていたら日の出が終わってしまった。ようやく出発したのは6時前くらいだったか。まずは標高を50mだけ上げてトラバース開始地点を目指す。テントを離れて数分歩いたところで森林限界を抜け、目の前に朝焼けの美しい景色が広がった。登山道は右へと折れ曲がり、その先の2,550m付近から右へとトラバースを開始して大門沢の左俣を目指す。

目の前に現れた大門沢はいかにも雪崩が起きそうな嫌な形状をしているのだが、ドカ雪が降ったわけでもないし、朝一で雪も締まっているのでそれほど危惧はしていなかった。正面に見えていた尾根の傾斜に取りつくと、そこから上部にあるであろう岩峰を目指してひたすら登る。雪のコンディション次第で取り付く場所が変わるようで、残雪期に登った時とは違う場所へ向かっていた。

大門沢左俣のトラバース

しばらくノーロープでアプローチを続けると岩峰の下あたりに出くわし、そこから取り付くことに。今回取り付いた場所からの岩登りは意外と難しかった。この岩峰を右から巻く方法もあるようだが、私達が通ったルートではそのようなことを思いつく形状出ななかったし、以前に来た時もそうは考えなかった。

登攀/登高の様子

今回は3人ということで、3人のうち真ん中(2番目に登る人)がアッセンダーで登るシステムにした(これについては注意点があるので後ほど触れたい)。以前に来たときは、2人で来てつるべ式で登ったため早く登れたのだが、今回は3人ということもあり結構な時間がかかった。つまり、それぞれのピッチで待ち時間が長く、待っている間はすこぶる寒い

日が当たっているうちはぽかぽか陽気で良いのだが、日陰に入った時の寒さは、自分たちが八ヶ岳にいるということを思い出させてくれる(八ヶ岳は寒いので有名)。実際、グローブやロープなど、日当たりの良さでとけた雪の水気を吸ったものが瞬く間に凍っていく様子にはある種の感動さえ覚えた。

第一岩峰を1ピッチ上がると、すぐにナイフリッジが2ピッチほど続く、ロープを上下でフィックスした状態で真ん中のメンバーがアッセンダーで進んだのだが、どうやらこれは危険なことだと動画にコメントをくれた視聴者から知った。クライミングというと垂壁に近いところばかりを登っていたので、こうした地形への対処が甘かったようだ。我々を見て「けしからん奴らだ」と思われたのかもしれない。確かに中間が左右どちらかに落ちたときはアッセンダーも効かないし、宙ぶらりんと言う変な状況に陥ってしまう。ロープ下部には十二分の余りを持たせて、落ちた場合は中間支点から直角に近い状態でテンションがかかるのが理想ということだろう。今後の教訓としたい。

第一岩峰を上がるフォロー

とは言っても通常はコンテで進むようなピッチなので落ちる想定はしておらず、リッジは難なく歩き終えた。この第一岩峰上のリッジ歩きが終わると第二岩峰の取りつきへとたどり着く。

リッジでフォローをビレイするリード

ルートからは赤岳頂上山荘が見える

第二岩峰は左から巻く方法もあるらしいが、我々はすぐに岩の左壁の直登を始める。この日の第二岩峰直登はちょうど日陰になっていたため、グローブもスリングもバキバキに凍ってしまい登り辛くて難しく感じた。岩壁を途中で切って、2ピッチ目でで岩峰の上部を目指した。ビレイ点にぶら下がっている間、第二岩峰を左から巻くのはどうするのかと地形を観察していたのだが、私には明確なイメージは湧かなかった。「雪質と雪の付き方によるんだろうな」と考えているところに、背中側(真教寺尾根)から「あっ、東稜登ってる人がいる!」という声が響く。振り返ると、50mほどしか離れていない真教寺尾根から我々を眺める3人の姿がよく見えて、「あんなとこ登る人が本当にいるんだなぁ」という話し声が聞こえてきた。赤岳鉱泉方面からの登山者なのだろうか。今日の東面側には誰もいないだろうと思っていたので、突然人を見かけると自分が人間だったことを思い出してなんとなく親近感が沸く。手を振ろうかと迷ったが、羞恥心が邪魔をしてできなかった。大人とはつまらない生き物だ… いや、性格の問題かな。

第二岩峰の中腹で区切った

第二岩峰上の短いリッジを進むと尾根の終点へとたどり着き、その次のピッチでは目の前の雪壁を登って稜線付近に出る。その後は竜頭峰目指して右手方向に進んでもいいが、時間も遅いのと特にピークに興味は無いため、左手方向に見える真教寺尾根の分岐へとトラバースして最終ピッチとした。

稜線に向かう最後のトラバース

幕営地から稜線付近までの登攀の様子はこちら👇

下山

稜線でロープを仕舞って下降の準備が整った時点で16時前。「普通ならテントに戻ってもう一泊するような時間だし、幸い明日は日曜日だなぁ…」と甘い考えが頭をよぎるが、遅くても下山したいという意思を全員で確認した。一般登山でこのような時間に行動するのは非常識とされるだろうが、アルパインをやる者たちは大なり小なり慣れている場合が多い。下りのリフトに間に合っていた前回の記憶が鮮明で、コンディションの違いと3人であることを深く考えていなかった点には少し反省した。

真教寺尾根を下り始めると、この日の登山道」のコンディションが過酷だということを改めて痛感した。1時間以上の間、片時もダブルアックスを手放すことができないほど急な下降が続き、今まで経験した「登山道」の中では最も厳しいのではないかと感じた。ロープを出して懸垂下降をするパーティーがいてもおかしくない。二足歩行が可能となる2,600m付近に辿りついたあたりで完全に日が沈んだため、ヘッドランプを付けてテントを目指した。

大急ぎでテントをたたんで下山を開始する。途中で「シャリばて」のようになって足取りが悪かった私のせいと、リフトが止まったことによる追加の距離のせいもあって、駐車場に着いたのは22時過ぎ。みやちんが「谷川岳じゃあるまいし」と一言。たしかに谷川岳(一ノ倉沢)を登って夜遅い下山になることはよくあったので、少し懐かしいとも感じてしまった。結局、片づけを済ませて出発したのは23時近くで、空いている銭湯などは一軒もなく、運転手の私はコンビニで買った流動食(スムージーにネクターにプロテインドリンク等)のようなもので腹を満たしながら東京に向かった。終電を逃した友人達を各々の住所まで送り、ようやく帰宅したのは夜明け前だった。

次の記事で会いましょう。

★がくんち – Gaku’s Base★

にほんブログ村 アウトドアブログへ
にほんブログ村

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

お気軽にコメントください

コメントする

目次